臨床研究のすすめ|後期研修医から始める実践的ステップ

臨床医の先生方は日々、数多くの臨床研究論文を読む機会があると思います。
しかし、「実際に自分で臨床研究をしたことがある」という方は意外と少ないのではないでしょうか。

この記事では、後期研修医の頃から臨床研究に取り組んできた私の経験をもとに、後期研修医が臨床研究を始めるためのステップを紹介します。


臨床研究の最初の一歩:経験はなくても始められる

私は前向き試験の経験はありませんが、後期研修医1年目から後ろ向きの臨床研究を行っていました。
専門に入ったばかりの時期で、日常業務をこなすだけでも精一杯。
それでも、夜な夜な患者データをExcelに入力し、統計解析をしていた日々を今では懐かしく思います。

最初の2〜3の研究テーマではまったく有意差が出ず、「自分にはセンスがない」と感じた記憶があります。
しかし、多数の患者症例を振り返る過程で、疾患の治療経過や病態理解が格段に深まりました。

臨床経験が浅い時期こそ、臨床研究に取り組むことで疾患理解が飛躍的に高まります。
後期研修の早い段階から後ろ向き研究に挑戦することを、私は強くおすすめします。


臨床研究に必要な統計ソフトと基本知識

R / EZRで十分始められる

臨床研究を始めるうえで、統計解析は避けて通れません。
ただし、難しい解析ソフトを使う必要はありません。Rやその医療向けバージョンであるEZRで十分です。

すべてを読破する必要はなく、「どの解析をどんな時に使うのか」がわかる程度に理解しておけばOKです。
(参考:公益社団法人日本内科学会「統計解析の基本」)

臨床研究は、教科書を読むだけでは身につきません。
実際に患者データを集め、統計処理を行ってみましょう。
細かい部分は後で修正できます。まずは手を動かすことが重要です。

EZRで初めてカプランマイヤー曲線を描いたときの感動は、今でも覚えています。


臨床研究のテーマ設定の考え方

臨床研究の質を決めるのは、テーマ設定です。
ここでは、初心者が現実的に取り組めるテーマの見つけ方を紹介します。

① 同規模施設の研究を調べる

まずは、自分の所属施設と同じ規模の病院から発表されている論文を調べましょう。
PubMed(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/)で「施設名」や「疾患名」を検索すると、過去の研究を確認できます。

その中から、自施設でも実施可能なテーマをピックアップします。
次に以下の点をチェックします。

  • 症例数はどれくらい必要か
  • 主要エンドポイント(outcome)は何か

この2点を把握するだけで、研究の実現性が一気に明確になります。


② 新規性のあるテーマにする工夫

臨床研究では、「既報との違い(新規性)」が重要です。
最初から革新的なテーマを思いつく必要はありません。
既存研究を少し「ずらす」だけで、新しい視点を生み出せます。

例:

  • 「Factor Aが疾患Bの予後に関わる」という論文がある場合、
     → 「再発例でのFactor Aと予後の関係」
     → 「難治例でのFactor Aと予後の関係」
    など、対象を一部に絞ってみましょう。

または、

  • 「診断時」や「治療開始時」「治療終了時」など、
     解析するタイミングを変えるのも一つの方法です。

こうした少しの工夫で、新規性のあるテーマは十分に作れます。
後期研修医のうちは、このような実践的テーマで臨床研究を経験することが非常に有意義です。


メンターがいなくても臨床研究はできる

もちろん、良い指導医がいればテーマ設定や統計の相談もスムーズです。
しかし、必ずしもそのような環境があるとは限りません。

それでも今は、昔よりも圧倒的に情報にアクセスしやすい時代です。
オンラインで論文を調べ、EZRを使って解析し、結果をまとめる。
これだけで立派な研究になります。

ぜひ、後期レジデントのうちに一度は臨床研究に挑戦してみてください。
最初の研究は苦労が多いですが、その経験は臨床力と研究力の両方を確実に高めてくれます。


まとめ|小さく始めて継続することが大切

  • 後期研修医でも臨床研究は始められる
  • 統計解析はEZRで十分
  • テーマは既報を少しずらすだけで新規性が出せる
  • メンターがいなくても挑戦できる環境が整っている

臨床研究は、結果だけでなく「プロセス」そのものが学びになります。
最初の一歩を踏み出すことで、日常診療の見え方が大きく変わるはずです。

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